スポーツ栄養講座① 成長期に何が起こっているの?

今回から、スポーツ栄養に関する記事も発信していきます!
スポーツ栄養講座 1回目のテーマは「4つの成長型と食事」

「成長型期の栄養がなぜ必要なのか」を考えます。
人間には4つの成長型があり、成長の時期に合わせて栄養を摂取することと、適切な体の成長につながってきます。一生のうちで最も食べる必要がある成長期にしっかりと栄養がとれれば、大人になってから困ることはないはずです。

小・中・高の成長世代への指導経験が豊富な神戸女子大学・坂元美子氏が、スポーツや部活動を頑張る生徒や保護者に向けて、アドバイスをおくります。

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【現役生活が長い選手は成長期にしっかり食べていた??】
私がスポーツ栄養の世界に入った当初、プロ野球選手に栄養指導をしていました。その時に成長期こそ食事の重要性を訴える必要があると気づきました。プロになる前に体作りがある程度できていれば、プロになってもケガをしない、丈夫な体で試合に臨むことができるからです。

プロ野球は毎日のように試合があり、暑さの厳しい夏でも体調を崩さないようにしなければ、シーズンを乗り越えることができません。ナイターも多いので、生活のリズムを一定に保つことが難しくなります。

さらに、プロ野球選手はお酒をよく飲みます。この点は、指導する側として苦労したこともあるんですが、一見すると無茶な食生活を送っていても、試合で活躍するベテラン選手がいるんですね。

こういったベテラン選手が小・中・高の成長期にどのような食事をしたかを分析すると、おやつが煮干しだったり、毎朝同じ物を食べるんですが、消化・吸収がよい加工食品に頼らない食事だったりと、成長期に必要な栄養を自然にとることで丈夫な体を作り上げていたのです。今とは時代が違いますし、サプリメントや体がしっかりできていれば、プロになった後に無理が利くようになるので、結果として選手寿命が長くなります。ただ、これは「成長期に適切な栄養をとっていたから」であって、その点に理解がなくプロ入り直後の選手がベテランの真似をすると、ケガをしたり、かえって選手寿命が短くなったりするので、気をつける必要があります。

 

【押さえておきたい!大人になる前に迎える4つの成長型】
人間は誕生から20歳の間に体が成長していき、「一般型」、「リンパ型」、「神経型」、「生殖型」の4つの成長型に分類されます。


1つ目の一般型は、身長・体重の発育・発達を示す成長曲線で、誕生~3歳、小学生の高学年~高校生と2度成長する機会があります。女子は小学生の高学年~中学生、男子は中学生~高校生と、一般的に女子の方が機会が早く訪れる傾向にあります。

この時期、スポーツを頑張るみなさんはトレーニングを積んでいくと思いますが、トレーニング量に見合った栄養摂取ができないと、成長が鈍くなる可能性があるとともに、さまざまなスポーツ障害をひき起こす原因となります。ですから、体の成長のための栄養、スポーツ選手としての栄養をしっかりとることが大切になってきます。

2度の成長機会には内臓の発育・発達も促されると同時に、食べた物の消化・吸収能力を獲得する、とても重要な時期になります。

1度目の成長機会「誕生~3歳」でカギを握るのは、離乳食です。この時期にさまざまな食材をとることで、食物アレルギーや好き嫌いが少なくなる確率が高くなります。

2度目の成長機会「小学生の高学年~高校生」は、本格的にスポーツをしているころになりますが、練習時や試合時により効果的に栄養を摂取するために、サプリメントを使用することも選択肢の一つになってくると思います。

サプリは、栄養を効率良く簡単に摂取でき、消化・吸収にも優れる加工食品です。パフォーマンスやコンディショニング面でも助けになるでしょう。

ですが、サプリに頼りすぎてしまうと、せっかくの消化・吸収能力を獲得する機会をみすみす見逃してしまうことになり、内臓面での発育・発達という点で逆効果になりかねません。この時期はサプリを使うのを我慢して、食事からの栄養摂取を心がけていきましょう。


2つ目の「神経型」は、体を上手に使う器用さ(運動神経)を示す成長曲線で、8歳(ゴールデンエイジ)でほぼ完成するといわれています。

この時期までにさまざまな運動をすることで、体全体を上手に使えるようになれば、後々ハードなトレーニングをしてもケガをしにくい体になっていきます。


3つ目の「リンパ型」は免疫力の獲得を示す成長曲線です8~16歳がピークになりますが、実に成人の約2倍まで免疫力をあげることができます。

免疫力を上げるための食事はもちろん、屋外で活動することによってビタミンD(免疫調整機能)の合成も促されます。集団行動・生活をすることでも免疫力が獲得できます。

スポーツを頑張っているみなさんは、屋外や集団での活動は自然と行っていると思うので、栄養のとり方を意識すると良いかもしれませんね。


最後は「生殖型」です。女性、男性ホルモンの分泌にかかわるもので、「一般型」とほぼ同様の成長曲線を描きます。

男子は、男性ホルモンの分泌が高まることで筋肉の量が自然と増えていきますので、無理のないトレーニングをすることが効果的です。

女子は、特に審美系(新体操、体操など)競技では減量せざるを得ない場合があり、手段として体脂肪を落とすということがあります。

しかし女性ホルモンを正常に分泌させるためにはある程度の体脂肪が必要で、過度の減量はホルモン分泌に支障をきたして「月経障害」「骨の成長障害(骨粗しょう症、疲労骨折)」の原因になるので要注意です。

 

【人生のうち最もエネルギーが必要な成長期!】
成長期のスポーツ選手は、競技に適した体作りのための栄養、トレーニングのための栄養、そして、人として成長するための栄養がより多く必要になってきます。

日本人の食事摂取基準によるエネルギー摂取量は、女子は12~14歳、男子は15~17歳で、一般型の成長曲線と同じ時期に一生のうち最も多くエネルギーが必要になってきます。

この時に、必要なエネルギー量だけを意識していればスポーツ選手としての体作りができるかというとそうではありません。また、筋肉をつける、体を作るために必要な栄養はタンパク質ですが、それだけをとっていれば体がどんどん大きくなるわけでもありません。

必要エネルギー量を確保するためにどのような栄養をとって、そのバランスをどのようにとるかがとても重要になってきます。

 

【食のコントロールは自己管理能力を高めること】
成長期には最も多くのエネルギー、栄養をとる必要があります。体の成長のためには、自分自身で「何を」「どれだけ」「どのタイミング」でとればいいのかを理解し、実践できるようにしたいですね。そのためには正しい生活・食習慣を身につけることが大切で、成長機会が訪れる小学生のうちに意識できるように心がけましょう。

それができるようになれば、中学生、高校生でスポーツを最も頑張る時期に成長が見込める上、パフォーマンスやコンディショニングと食の関連性や大切さを自然と考えられるようになっているはずです。これは、自己管理能力にも結びついてきます。

五輪やプロで活躍するアスリートは、自己管理能力に長けているとよくいわれます。海外など食べ慣れた物が手に入らない環境下でも、自身で食のコントロールをしてパフォーマンス、コンディションを維持して結果を残しています。

ですから、早い時期から食を意識することは、体の成長、自身の成長を高めることになるのです。

 


●坂元美子氏プロフィル(神戸女子大学)
スポーツ栄養学がほとんど知られていなかったころからプロスポーツ現場での栄養指導に携わり、0からノウハウを確立。特に、野球、サッカーの成長期世代の栄養指導・サポート経験が豊富で、チームの強化にも一役買っている。長年の指導経験を後進に伝えながら、多くの人にスポーツ栄養学を知ってもらうべく、活動中。
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※この記事は、スポーツ・運動と食を結ぶwebマガジン「すぽとり」で掲載された記事を再編集したものです。
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