歳時記を知ろう⑩

今回は3月の歳時記をご紹介します。

【歳時記とは】

当初、歳時記(歳事記)は太陰太陽暦(旧暦)を基にした年中行事や四季の事物をまとめた物を指しましたが、江戸時代以降になると、俳句や俳諧の季語を分類し、解説等を加えた書物の事を指すようになりました。
現在では、「食の歳時記」や「暮らしの歳時記」・「季節の歳時記」といった様々な形で行事や四季を身近に楽しみ、感じてもらえるよう出版されています。
※太陰太陽暦にも様々な計算方法があり、その中で太陽暦に変わる直前まで使用されていた「天保暦」を一般的には「旧暦」という事が多いようです。

【弥生(やよい)】

弥生は3月の別名です。
諸説ありますが、「弥(いや)」は「ますます」や「いよいよ」といった意味があり、「生(おい)」は「生い茂る」といった、草木が芽を出し成長する様を意味する事から、「弥や生ひ月」が転じ、「弥生(いやおい)」→「弥生(やよい)」なったとする説が有力です。


【3月の行事など】※2018年の旧暦を基に日にちを出しています。

3日:桃の節句(もものせっく)・上巳の節句(じょうしのせっく)
五節句のひとつで「雛祭り」とも呼ばれています。
起源は古代中国で行われていた「上巳の節句(じょうし(じょうみ)のせっく)」とされ、水辺で身を清め、桃花酒(とうかしゅ)を飲んで邪気を払う行事です。
もとは性別や年齢は関係なく、邪気を払い幸せを願う行事でしたが、江戸時代、上巳の節句が五節句に指定されると、端午の節句が男子主役の節句となっているのに対し、ひな人形や桃が使われるので、女子主役の節句となりました。

6日:啓蟄(けいちつ)
春に向かう陽気につられ、土の中の虫達も外に出て来る頃。
虫だけでなく、命ある様々な生物が目覚め始めます。
肌寒さの残る時期でもありますが、本格的な春まであともう少し。

21日:春分(しゅんぶん)・春の彼岸(はるのひがん)
太陽が真東からのぼり、真西に沈む日。
昼夜の長さが同じになります。
春の彼岸のちょうど真ん中にあたる日を春分といい、春分と前後3日間を含めた7日間を「春の彼岸」とし、お墓参りをして先祖を供養します。
「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉があります。
これは春分以降、日が長くなって暖かさが増し、秋分以降は日が短くなって寒さが増すので、季節の目安とされた事に由来します。
彼岸にはおはぎやぼたもちをいただきます。
※おはぎ・ぼたもちについては「歳時記を知ろう④(9月編)」をご参照ください。

【味覚】

春きゃべつ・新たまねぎ・わらび・ぜんまい・ふき・うど
真鯛・鰆(さわら)・細魚(さより)・飛魚(とびうお)・はまぐり・あさり など

【桃の節句の食べ物)】

桃の節句の食べ物には縁起の良い意味合いがあります。
地域によって様々な食べ物がありますので、今回は代表的なものをご紹介します。

○菱餅(ひしもち)
ピンク(赤)・白・緑の餅を菱形にし、重ねたもの。
ピンク(赤)は「病除け」・白は清浄(清らかさ)」・緑は「厄除け」を意味します。
また、ピンク(赤)は「桃の花」・白は「雪」・緑は「新芽」を模しているといわれ、冬から春への季節の移り変わりも表しているとされています。

○ひなあられ
ピンク(赤)・白・緑・黄色など、様々な色が付けられた小さなあられは菱餅同様、色ごとに意味があります。
また、関東と関西であられの見た目や味が違います。
関東は米をあぶった物に砂糖などをまぶしますが、関西は餅を砕いて揚げたものが主流で、塩や醤油系の味付けが多いそうです。

○ちらし寿司
ちらし寿司に使われる食材は縁起の良い意味合いの物が多く、彩りも綺麗です。
入っている食材として、海老(腰が曲がるまで長生き出来るように)・れんこん(見通しがきく)・豆(健康でまめに(しっかり)働けるようにといった物が代表的ですが、地域によって様々です。
※ここでいう豆は絹さやなど、彩りで加えるものをイメージしています。

○蛤の潮汁
3月3日に磯遊びをし、お供えした名残で桃の節句に頂くお吸い物です。
二枚貝は対になっている殻としかぴったり合わないといわれ、良縁に恵まれ、仲睦まじく過ごせるようにとの願いが込められています。
ハマグリは平安時代には貝合わせ遊びの道具として使われていました。
旬でもあるハマグリで作る潮汁は、開いた貝の殻それぞれに身を乗せます。
同じく旬の菜の花を合わせると椀の中が華やかになりますね。

○白酒
もとは、桃の花びらを酒に浮かべて楽しむ「桃花酒(とうかしゅ)」を飲んでいましたが、江戸時代に白酒が造られるようになり、桃の節句には白酒を飲むようになりました。
ちなみに、白酒=甘酒と思われる方も多いかと思いますが、違うものになります。
白酒はもち米・みりん・米麹・焼酎などで造る「にごり酒」で、アルコール度数10%前後のお酒です。
子どもは飲むことが出来ないので、一緒に楽しむために考えられたのが、ごはんと米麹で造るノンアルコールの甘酒を代用する方法です。
※甘酒は製造方法が2種類あります。
酒粕で造る物がアルコール度数7~8%前後で、米麹で造る物は1%未満です。
酒粕で造る物は加熱してもアルコールが残る可能性が高いので、子どもには与えない方がいいですね。

いよいよ暖かで彩豊かな季節がやってきますね。 桃は「百歳(ももとせ)」に通じ、聖なる力のある木とされています。
桃太郎が鬼退治をする話も、桃の邪気を払う力を基に出来たそうです。季節の花を愛でながら、家族で春を感じて下さいね。

Text by さゆり/食育インストラクター